生産技術実話シリーズ 第4話

なぜ、大日本セルロイドは世界一になれたのか ―― その答えは「樟脳」にあった!

私は以前から一つの疑問を持っていました。

なぜ東洋の一企業であった大日本セルロイドは、世界最大のセルロイドメーカーへ成長することができたのでしょうか。

この問いに即答できる人は、現在ではほとんどいないと思います。

私は、その答えは「樟脳(しょうのう)」にあると考えています。

図1 樟脳の構造式

セルロイドは、人類最初の実用プラスチックとして知られています。

しかしセルロイドは、硝化綿だけでは製造できません。

可塑剤として大量の樟脳が必要になります。

そして当時、世界最大級の天然樟脳の供給地が台湾でした。

台湾にはクスノキの大森林が広がり、その樹木から天然樟脳が採取されていました。明治神宮の大鳥居は、台湾産のクスノキです。

図2 熊野の那智大社神木

日本統治時代、この豊富な樟脳資源を安定的に利用できたことが、大日本セルロイドの大きな競争力となりました。

その結果、大日本セルロイドはセルロイドフィルム分野で世界有数の企業へと成長しました。

そして、この世界トップレベルの支持体技術を基盤として誕生したのが、富士写真フイルム株式会社です。

つまり、

富士フイルムが世界一になった理由をさらに遡ると、そこには台湾の天然資源と、それを活用した大日本セルロイドの技術基盤もあったのが分かります。

技術の歴史を深く調べると、一見関係のない出来事が一本の線でつながって見えてきます。

これもまた、生産技術者が「Why」を追及する面白さの一つだと私は考えています。

生産技術者への教訓

世界一の技術は、世界一の資源・材料・技術基盤の上に築かれる。


生産技術とは、設備だけを見る学問ではありません。

材料、資源、歴史、そして技術の連続性まで理解して初めて、その本質が見えてくるのです。