生産技術実話シリーズ 第6話

なぜ富士フイルムの品質は世界最高水準で安定していたのか —— その答えは「ABM技術」にあった

私は以前から、一つの疑問を持っていました。

写真フィルムは「品質の信用」を売る商売です。

一枚一枚の品質が違っていては、お客様の信頼を得ることはできません。

ところが、その最も重要な原材料の一つであるゼラチンは、牛や豚の骨や皮から作られる天然物です。

天然物である以上、品質のばらつきを完全になくすことはできません。

では、

なぜ富士フイルムは、世界最高水準の品質を長年にわたり維持できたのでしょうか。

その答えが、

ABM技術でした。


天然物のばらつきを、そのまま製品に持ち込まない

生産技術者の仕事は、

「ばらつきを受け入れること」

ではありません。

ばらつきを理解し、設計によって封じ込めることです。

富士フイルムでは、

性質の異なるゼラチンを十分に評価し、

複数ロットを計画的に混合して、

一つの均質な原料として使用していました。

これが、

ABM(A・B Mixture)技術

という考え方です。


混ぜることで、ばらつきは小さくなる

一見すると、

異なるものを混ぜれば品質は悪くなるように思えます。

しかし統計的には、

適切に組み合わせた複数ロットを混合すると、

個々のロットが持っていたばらつきは平均化され、

結果として品質変動は大幅に小さくなります。

つまり、

品質を安定させるために、あえて混ぜる。

これがABM技術の本質でした。


一社だけでは実現できない技術

しかし、

ABM技術は富士フイルムだけで完成するものではありません。

原材料メーカーが、

安定した品質情報を提供し、

富士フイルムが、

そのデータを解析し、

最適な組み合わせを設計する。

この両者の長年にわたる信頼関係があって初めて、

ABM技術は成立したのです。

つまり、

品質は工場だけで作るものではありません。

サプライヤーとの技術連携によって初めて作られるものなのです。


品質とは、設計された「ばらつき管理」である

品質管理というと、

検査を強化することだと思われがちです。

しかし、

世界最高水準の品質とは、

検査によって作られるものではありません。

ばらつきを理解し、

工程を設計し、

原材料まで含めて管理することで、

初めて実現できます。

私は、

富士フイルムの強さは、

まさにこのような

「品質を設計する生産技術」

にあったと考えています。


生産技術者への教訓

品質とは、検査で作るものではない。
原材料のばらつきを理解し、工程設計で封じ込めることで初めて実現する。