生産技術実話シリーズ 第10話

なぜ富士フイルムは世界最高の生産設備を持つことができたのか──その答えは「設備を自ら創る技術」にあった

私は以前から、一つの疑問を持っていました。

なぜ富士フイルムは、世界最高水準の写真フィルムを安定して生産し続けることができたのでしょうか。

品質管理でしょうか。

品質検査でしょうか。

優秀な研究者でしょうか。

もちろん、それらも重要です。

しかし、私はその本質は別のところにあったと考えています。


写真フィルムメーカーは、設備メーカーでもあった

富士フイルムでは、写真フィルム製造の核心となる設備を、ほとんど自社で設計・製作していました。

例えば塗布設備。

塗布ヘッドは、イーストマン・コダック社が開発した形状を徹底的に研究し、自社で製作しました。

試作を繰り返し、実験を繰り返し、改造を重ね、ついには自社独自の設備として完成させたのです。

しかも、その塗布ヘッドの本体材料である大型インゴットまで、特殊仕様で製鋼メーカーへ依頼して製造させていました。


乾燥装置は、すべて自社設計だった

さらに驚くべきことがあります。

乾燥装置に至っては、基本設計から詳細設計、部品設計、製作図面、試運転まで、

そのほとんどを自社で行っていました。

図1 製作中のフロータードライヤー 服部製作所で(1988年2月)

私は実際に、その設計・製作・改良の現場に携わりました。

図2 ドライヤーノズルの水平・平面度チェック

世界でも例のないHAC(Helical Air Cushion)乾燥装置も、そのような現場から生まれた技術です。

設備メーカーから購入した装置ではありません。

自分たちで考え、自分たちで設計し、自分たちで完成させた設備だったのです。


なぜ、そこまで設備を自分で作ったのか

ここで一つの「Why」が生まれます。

なぜ、そこまでして設備を自社で作る必要があったのでしょうか。

その理由は単純です。

写真フィルム製造のノウハウの多くは、生産設備そのものに組み込まれているからです。

つまり、設備そのものが、技術であり、品質であり、競争力だったのです。

設備を外部に任せてしまえば、その技術は社外へ流出してしまいます。

だからこそ、設備そのものを自社で設計し、

自社で改良し、

自社だけの技術として蓄積していったのです。


生産設備は、企業の知的財産である

多くの人は、製品のノウハウだけが企業秘密だと思っています。

しかし実際には、最も重要な企業秘密は、

「その製品を作る設備」

の中にあります。

だから私は、生産技術力を評価する際、設備を見ることを最も重要視しています。

設備を見れば、その会社が、何を考え、どのような思想で、どのような技術を積み上げてきたかが見えてくるからです。

生産技術者への教訓

世界最高の製品は、世界最高の設備から生まれる。


そこには技術者の知恵、失敗、改良、そして企業文化そのものが組み込まれています。

だから私は、生産技術力を評価するとき、設備を最初に見るのです。

設備を見れば、その企業の技術力が見えるからです。

私は、このような設備に宿る「見えない技術資産」を科学的に評価するために、「生産技術力鑑定」を提案しています。

設備を見ることは、企業の未来を見ることでもあるのです。