生産技術実話シリーズ 第11話
なぜ富士フイルムは世界中のメーカーから信頼されたのか ――その答えは「技術を世界と共有する文化」にあった
私は富士フイルムで約25年間、海外技術ライセンス業務に携わりました。
多くの方は、「技術ライセンス」と聞くと、契約書を交わし、ロイヤリティを受け取る仕事を想像されるかもしれません。
しかし、実際の仕事は全く違いました。
契約は、長い物語の始まりに過ぎなかったのです。
富士フイルムは、自社技術を世界へ広げていた
富士フイルムは、新しく開発した生産技術を、自社工場で実用化すると同時に、世界各国のメーカーと技術ライセンス契約を締結していました。
その結果、富士フイルムの生産技術は世界各地の工場で活用されるようになりました。
技術開発には莫大な投資が必要です。
しかし、その開発成果を世界へ展開することで得られるロイヤリティ収入が、新たな技術開発への投資となり、さらに次の技術革新へとつながっていきました。
私は、この仕組みこそが、日本の製造業が世界最高水準の技術を維持できた理由の一つであると思っています。
世界中から技術者が富士宮工場を訪れた
富士宮工場には、
アメリカ、
イギリス、
フランス、
南アフリカ、
スペインなど、
世界中の写真フィルムメーカーや製紙メーカーの技術者が視察に訪れました。
Mead Paper社をはじめ、多くの企業とは長年にわたり技術交流が続きました。
海外からお客様を迎えるたびに、私は研究所長、工場長、生産技術部門、品質保証部門などの責任者に協力をお願いし、その時々で最も適したメンバーによるチームを編成しました。
富士フイルムの技術を正しく理解していただくためには、一人の力ではなく、多くの専門家の協力が不可欠だったからです。

(図1 海外技術ライセンス事業の初期メンバー)
(図2 Mead Paper社視察団 富士宮工場)
(図3 英国・フランス・南アフリカなど各国視察団との記念写真)
本当の仕事は契約のあとに始まる
海外技術ライセンスの仕事は、契約書を交わして終わる仕事ではありません。
本当の仕事は、その後に始まります。
ライセンシーの工場へ何度も足を運び、
現場で技術者と議論し、
一つ一つ課題を解決しながら、生産技術を定着させていく。
昼は工場を見学し、
夜は日本料理を囲みながら互いの文化を語り合う。
こうした交流を何年も積み重ねることで、契約では築けない信頼関係が生まれていきました。
私は、この仕事を通じて、
「技術ライセンスとは、技術を売る仕事ではなく、人と人との信頼を築く仕事である」
ということを学びました。
最も長い友情はスペインで生まれた
私にとって最も長い付き合いとなった海外の技術者は、
スペイン・サリオ社(SARRIÓ社)の工場長 Carlos です。
私は何度もスペインを訪問し、Carlosを中心とした生産技術メンバーに対して技術セミナーを行いました。
(図4 スペイン・サリオ社での技術セミナー)
最初は技術ライセンスを通じた仕事上の関係でした。
しかし年月を重ねるうちに、私たちは仕事を超えた友人となりました。
家族同士がお互いの家を訪問し、
日本とスペインを行き来する交流が始まりました。
そして現在では、
私の息子たち、その家族と、Carlosの息子さんの家族との交流が、会社を離れた今でも続いています。
会社の仕事は終わりました。
技術ライセンス契約も終わりました。
しかし、
友情は終わりませんでした。
私は、このことこそ技術ライセンス業務で得た最大の財産だったと思っています。
生産技術者への教訓
技術とは、製品をつくるためだけのものではありません。
人と人とを結び、
国と国とを結び、
世代と世代を結ぶ力を持っています。
富士フイルムが世界中から信頼された理由は、
優れた技術だけではありません。
その技術を惜しみなく伝え、
共に学び、
共に成長しようとする企業文化があったからです。
私は25年間の海外技術ライセンス業務を通じて、
「本当に価値ある技術は、世界中の技術者との信頼を育て、次の技術革新を生み出していく」
ことを学びました。
生産技術者への教訓
本当に優れた技術は、製品だけでなく、人と人との信頼も生み出す。

