生産技術実話シリーズ 第1話

乾燥技術における「逆転の発想」

乾燥装置と聞くと、多くの技術者は「高効率」「高い伝熱係数」「コンパクトな装置」を思い浮かべるでしょう。

しかし、私が富士フイルムで携わった銀塩感光材料の乾燥技術は、その常識とは全く異なる世界でした。

乾燥する対象は、わずか100g/㎡程度の薄い感光膜に含まれる水分です。

ところが、その乾燥装置は全長300mを超える巨大な設備になります。

図1 全長300mを超える世界最強の銀塩感光フィルム塗布装置概念図

「乾燥装置は小さいほど優れている。」

一般的にはそのように考えられています。しかし、銀塩感光材料では、その発想では世界最高レベルの品質は実現できません。

感光性能を維持しながら、膜厚を均一に保ち、寸法変化を極限まで抑え、品質のばらつきをなくすための、「一定条件製造」の概念を集約したのが、

このHACドライヤーであり、乾燥速度だけを追求するのではなく、製品品質を最優先にしたプロセス設計なのです。

つまり、

「乾燥装置を設計する」のではなく、「求める品質から乾燥プロセスを設計する」。

これが、生産技術における逆転の発想です。

私は、この考え方こそが富士フイルムの生産技術力の最重要ポイントであると考えています。

図2 HACドライヤーの概念図

図3 1980年ごろの感光材料乾燥設備

生産技術力とは、高価な設備を導入することでも、新しい装置を作ることでもありません。

製品が要求する品質を実現するために、工程全体を最適化する技術力です。

この乾燥技術の経験から私が学んだことは、「設備の大きさ」や「乾燥速度」が本質ではないということです。品質を決める現象を理解し、その現象に合わせて工程を設計することこそ、生産技術力の本質だと考えています。

残念ながら、このような企業固有の技術力は、財務諸表にも特許件数にも表れません。

しかし、それこそが企業の競争力を支える「見えない資産」なのです。

私は、このような現場で培われた見えない技術力を客観的に評価する仕組みとして、「生産技術力鑑定」を提案しています。

これからも、「生産技術実話シリーズ」において、生産技術の現場で実際に経験した事例を提示して、「生産技術力」とは何かをお伝えしていきます。

生産技術者の一言

品質から、プロセスを設計する