[基礎解説] 安全保障貿易管理(後編)
3.企業のリスクマネージメントとしての輸出管理
現在では多くの企業が海外企業との連携を行う等、海外市場への展開が活発化していますが、それだけになお、機微な製品や技術が懸念国家やテロリストの手にわたらないよう、法令遵守、自主管理について細心の注意を払う必要があります。
万一、不正輸出がなされ、それが悪質な場合には、外為法や関税法違反により、警察の強制捜査が入ったり、逮捕者が出たりして、企業の社会的・道義的責任を問われ大ダメージを受けかねません。厳しい刑事罰だけでなく、外為法に基づき一定期間の輸出禁止という制裁措置が課されることもあります。加えて、包括許可の取り消し、通関上の優遇措置の取り消しによる経済的損失、さらには株主代表訴訟を提起され経営者が責任を問われる恐れもあります。
また、国際法上の問題ではありますが、米国の輸出管理上の規制が日本にも域外適用されていますから、米国が問題視するような米国法令違反の場合には、米国政府によって取引停止、輸入禁止等の制裁措置が課される可能性も否定できません。
いずれにしても、安全保障貿易管理がうまくいかないと、場合によっては企業の存亡に関わる事態になりかねないため、経営トップ自身のリーダーシップの下で、十分な管理体制を構築・運営する必要があります。
仮に、直接の法令違反にならない場合であっても、自社製品が大量破壊兵器の開発に使用されたことがわかれば、社会的・道義的責任を問われることもあります。国内で販売されたもののすべてが国内で消費されるとは限りません。国内で販売されたものでも、そのまま、あるいは他社の製品や技術と組み合わされて輸出される例は多くあります。直接輸出していないから関係ないというわけではありませんし、輸出商社から外為法の規制に該当するかどうかの判断を求められることもあるでしょう。ですから、機微製品、技術に関わる企業は、安全保障貿易管理マインドをよく浸透させておくことが必要でしょう。
4.おわりに ~安全保障貿易管理について、さらに理解を深めるために~
現在多くの企業では、厳しいコンプライアンスの下、安全保障貿易管理に取り組んでいます。しかし、経済の国際化や、国際的な人的交流の進展に伴い、中小企業や大学・研究機関も含めた的確な安全保障貿易管理が必要となっています。
ハイテク先進国日本の製品や技術が懸念国等で軍事転用される危険性が身近に存在しているということ、そしてこれは日本や世界の安全保障を脅かす問題に繋がるのだということを十分に理解した上で、政府、産業界、大学等が一丸となって安全保障貿易管理に取り組んでいくことが求められています。
安全保障貿易情報センター(CISTEC)では、産業界の皆様の安全保障貿易管理体制の構築や運用に対する支援のため、研修セミナー、出版物の提供、顧客情報等の総合データベースの提供、実務能力認定試験、貿易相談等さまざまな支援事業を行っています。このホームページでも、CISTEC独自の資料・情報だけでなく、経済産業省作成の有益な資料も含めて紹介していきますので、最大限ご活用いただければ幸いです。 技術士(化学部門)中村博昭

