貿易立国である日本におけるコンプライアンス経営の課題は? 特に輸出管理(安全保障貿易管理)を中核とした視点で明示します。

1.複雑化・高度化する国際輸出管理体制への対応

・国際的に輸出管理制度が急速に強化され、米国のEAR規制や中国の輸出管理法との整合性が求められる。

課題内容:

・特にデュアルユース技術(民生用と軍事用の両方に使用可能な技術)の管理強化が焦点。

根拠・背景:

・米国による中国半導体産業への制裁強化(2022年10月以降)を受け、日本政府も2023年から特定製造装置のリスト規制を導入。

ワッセナーアレンジメント等の国際レジームに基づく法令改正の頻度増加。

2.中小企業・サプライヤーまでのコンプライアンス意識の浸透不足

課題内容:

・大手企業はCP(コンプライアンス・プログラム)体制を整備しているが、中小企業では認識不足や人的資源の制約により未整備が多い。

根拠・背景:

・経済産業省が提示する「安全保障貿易管理に係る内部管理体制ガイドライン」では、社内規程、該非判定、教育訓練などが必須項目とされるが、未実施企業が多数。

・多くの下請け企業が「形式的な契約書の署名」にとどまり、実質的な管理が行われていない。

3.該非判定・リスク評価スキルの不足

課題内容:

・製品や技術の該非判定(外為法に基づく)を正確に行うスキルが不足し、誤出荷リスクや過剰対応による商機損失が発生。

根拠・背景:

・該非判定には、製品仕様・技術内容を熟知したエンジニアと、法令に精通した管理担当者の連携が不可欠。

・JASTPROやNACCSでは、形式的な分類は可能だが、最終的なリスク判断には企業内での判断責任が求められる。

4.社内教育・定期訓練の形骸化

課題内容:

・「一度研修しただけ」で済まされているケースが多く、最新法令・事例に基づく継続的教育が不足。

根拠・背景:

・経済産業省の定期指導において、社員教育が単発または表面的である企業が指摘対象になっている。

・特に技術者や営業担当者の誤認による漏洩・違反リスクが報告されている。

5.経営トップの関与の不十分さ

課題内容:

コンプライアンスを「管理部門の仕事」とみなす経営者が少なくなく、全社的リスク管理体制まで昇華できていない。

根拠・背景:

・経済産業省や多くのCP取得企業が重視するのは「トップマネジメントの関与・メッセージの発信」

・2024年の経済産業省指針では、経営層によるリスクアセスメント方針表明の義務化が強調されている。

6.グローバル市場での信頼維持

課題内容:

・不正輸出・コンプライアンス違反が発覚すると、対外的信用失墜とビジネス停止のリスク。

根拠・背景:

・例:過去に電子部品メーカーや工作機械メーカーが不正輸出で摘発され、海外取引先と契約解消・輸出停止に追い込まれた事例あり。

米国政府の制裁リスト(Entity List等)に載ると、取引停止や金融制裁が連鎖。

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